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全国憲法研究会は、約400名の会員を擁する憲法学研究者の学会です。

代表挨拶

全国憲法研究会代表

石川 健治

(東京大学教授)(2023年10月代表就任)


 全国憲法研究会は、「憲法を研究する専門家の集団」としては、現代日本における最大規模の学会です。1965年4月25日、東京大学本郷キャンパス内にあった学士会分館で発足し、いよいよ還暦も間近になりました。略称は「全国憲」。初代事務局責任者の故・針生誠吉教授から伺ったところでは、ゼンケンケンではphoneticによろしくないというのが、その理由であったようです。

 全国憲発足当時、戦前から活躍する宮沢俊義・清宮四郎ら長老教授は、他分野の著名な知識人たちとともに「憲法問題研究会」を結成し、毎年5月3日に行われる憲法記念講演会や、岩波新書や雑誌『世界』での執筆活動を通じて、社会的発言を行っておられました。他方で、「憲法理論研究会」(初代代表・鈴木安蔵)も、若手研究者を集めて、すでに先鋭的な活動を開始していました。そうしたなか、全国憲は、学徒出陣の世代を中心とする40代以下の研究者たちが、「学友たちの死の意味を、ぜったいに不毛に終らせてはならぬ、という決意」という共通基盤の存在を背景として、政治的立場を超えて結集したところに特徴がありました(和田英夫「全国憲法研究会の発足」1965年5月3日朝日新聞夕刊)。

 主任教授クラスの研究者が集まったこの学会の強みは、「相当あつみのあるシムポジウムを行なう能力」にあったといえるでしょう(針生誠吉「全国憲法研究会の発足」法律時報37巻7号58頁)。それが発揮されるのが、年2回、春と秋に行われている研究集会です。呼びかけ人のひとり高柳信一は、「会員の憲法問題に対する具体的態度はきわめて多彩である」けれども、「多彩な立場の研究者の共同研究であってこそ意義が大きい」、と指摘しています(高柳信一「憲法学者の使命と責任」世界1965年7月号)。

 他方で、全国憲の「全国」という形容には、各地に散在する憲法研究者たちの思いを「全国的に一本に結集して、学者のまとまった集団的発言として、社会的にも影響力のあるものとすることができるよう」にしたいという企図が、含まれており(「仮称『全国憲法研究会』発足の呼びかけ」法律時報37巻6号65頁)、全国憲は、日韓基本条約批准をめぐる衆院本会議での強行採決への抗議声明を皮切りに、節目節目で社会的発言を行ってまいりました。これが、現在では――カンパを原資に学会とは別会計で行われている――憲法問題特別委員会による公開シンポジウムという形で、継続されています。

 さらに、主力会員の物故を理由に解散を決めた「憲法問題研究会」から、大切な5月3日の「憲法記念講演会」を正式に託されて、爾来1977年から今日に至るまで――直前に発生したコロナ禍で中止を余儀なくされた2020年を除き――毎年欠かさずに開催してまいりました。これは、数ある憲法集会のなかから、学問的な憲法論議を聴くために当会を選び、わざわざ足を運んでくださる市民のみなさまの、熱いご支持の賜物です。この伝統ある講演会の主催者であることが、いまや全国憲のアイデンティティになっている、といっても過言ではないでしょう。

 創設60年の節目に代表の大役を拝命した私といたしましては、まずもって、コロナ禍で喪われた会員間の直接的な意見交換の場を再構築すべく、「全国」からご参集いただける魅力ある研究集会を実施することが、なにより重要な任務であると自覚しております。発足したばかりの「全国憲法研究会研究奨励賞」の価値も、それでこそ高まるものと思われます。そうして、立憲主義のフォーラムとしての全国憲を未来に向けて育ててゆくことが、ひいては、日本における「憲法政治」への寄与にもつながるに違いありません。

 関係各位のみなさまのご協力を、切にお願い申し上げる次第です。