◆代表挨拶

代表 長谷部 恭男
(2015年10月より、全国憲法研究会代表)

早稲田大学法務研究科教授







 全国憲法研究会は、約500名の会員を擁する憲法学研究者の学会(略称、全国憲)であり、日本学術会議協力学術研究団体に指定された研究団体です。憲法学関連の学会には、ほかに日本公法学会、憲法理論研究会などがあります。

 全国憲法研究会は1965年4月25日、芦部信喜・阿部照哉・有倉遼吉・小林直樹・小林孝輔・長谷川正安・和田英夫教授ら25人が世話人となり、全国55大学に属する112人の憲法研究者を会員として創設されました。その前年の7月、内閣に設置された憲法調査会の最終報告書が提出され、明文改憲の動きが急速に進んだことへの危機感が背後にありました。
規約(1971年5月制定)の第1条では、「平和・民主・人権を基本原理とする日本国憲法を護る立場に立って、学問的研究を行ない、あわせて会員相互の協力を促進することを目的とする」と定めています。実際、創立時の第1回研究総会は「第9条をめぐる諸問題」、第2回は「教科書検定をめぐる諸問題」、第3回は「小選挙区制の比較制度的研究」がテーマに掲げられるなど、とくに最初の10年間は、現実の憲法政治に関わる喫緊の検討課題に取り組みました。

  その後も、理論的・実践的な観点から研究する憲法学の課題はたえず進化・深化を続けてきました。とくに1970年代後半以降、憲法解釈の精緻化に伴い憲法訴訟理論研究や比較憲法研究の手法が重視されるようになり、芦部信喜・奥平康弘・杉原泰雄・樋口陽一教授らを中心に、多くの若手研究者が参加して理論研究を深めました。1990年からは学会誌として『憲法問題』を刊行し、毎年5月と10月に研究集会を開催して研鑚を続けています。
 また、市民とともに憲法問題を考える機会にするため、毎年5月3日には「憲法記念講演会」を開催しています。歴代ゲスト講師には、井上ひさし・大江健三郎・姜尚中・上野千鶴子・辻井喬の各氏や元最高裁判事などが含まれており、多数の市民の参加を得て、各時代を反映した課題を追究してきました。

 近年、各国の憲法や憲法学では、グローバル化のもとで国民国家の主権が揺らぎ、多文化共生社会の中で人権の普遍性論が問い直されるなど、大きな変動期を経験しています。従来は英米独仏の4カ国の憲法史や憲法理論を主な検討対象としてきた日本の比較憲法・憲法学研究も、今日では、アジア諸国や途上国なども広く視野に入れることが求められています。

 日本国憲法は、第二次安倍政権の成立以降、未曾有の危機に直面しています。その端的な現れが、2014年7月の閣議決定による集団的自衛権の行使容認であり、また、2015年9月のいわゆる安保法制の成立です。いずれも、憲法による政治権力の拘束という立憲主義の最低限の意義さえないがしろにしかねず、また、論理的一貫性や法的安定性の確保という、法学の知的廉潔性の核心を攻撃するものです。これらの法制が日本の平和と安全を保障するという政府・与党の主張も、具体的な裏付けを欠く抽象論にとどまっています。われわれ憲法研究者の学知の力が試される状況は、今後も継続することが予想されます。

このような状況にあるからこそ、憲法学研究者は相互協力のもとに一層研鑚を積み、日本社会と憲法の危機を克服するために力を尽くさなければなりません。そのために、全国憲法研究会が大いに貢献できることを、切に願っているところです。 これらの問題意識を共有し、本学会の趣旨に賛同される研究者等の皆さまのご入会や、憲法問題に関心を有する市民の皆さまの積極的なご支援・ご参加を、心より歓迎いたします。